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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12058号 判決 1982年9月08日

原告 日本ランデイック株式会社

右代表者代表取締役 鈴木嘉徳

右訴訟代理人弁護士 畠山保雄

同 原田栄司

同 石橋博

同 堀内俊一

同 山本荒大

被告 株式会社ヨドバシカメラ

右代表者代表取締役 藤沢昭和

右訴訟代理人弁護士 村田寿男

右訴訟復代理人弁護士 岩石行二

主文

被告は原告に対し金三八七五万七一二五円及びこれに対する昭和五三年八月一一日から支払ずみまで年一割五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一申立

原告は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求の原因

1  原告は、昭和五一年一二月一日、訴外株式会社ミクラス(以下「訴外会社」という。)との間で、シャープ株式会社製電子計算機HAYAC五〇〇〇システム装置一式(以下「本件物件」という。)を同会社に貸与する旨の大要次の約定によるリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(一) リース期間 借受証発行日(右同日)から七二か月

(二) リース料 一回当り九三万四六〇〇円

(三) リース料支払方法 リース開始日(右同日)に第一回リース料を支払い、第二回目以降は昭和五二年一月一日から毎月一日に原告指定の普通預金口座に振り込んで支払う。

(四) 解除約款 訴外会社に手形不渡処分、支払停止の状態等一定の事由が生じたときは、原告から別段の通知催告を要しないで、本件リース契約は解除される。

(五) 規定損害金 前号により本件リース契約が解除されたときは、訴外会社は原告に規定損害金(リース契約の開始するまでは左の基本額、同開始後は基本額から左の逓減月額に支払ずみ月数を乗じた金額を差し引いた金額)を支払う。

基本額 四八〇三万七〇〇〇円

逓減月額 第三六か月まで五四万五八七五円

第三七か月以降七二万七八三三円

(六) 遅延損害金 年一五パーセン卜

2  被告は、右1の契約日に、原告との間で、訴外会社が右契約に基づき負担する一切の債務につき連帯保証する旨の契約(以下「本件保証契約」という。)を締結した。

3  訴外会社は、原告に対し、昭和五三年四月分まで一七か月分のリース料を支払い、同年五月分以降のリース料の支払を怠っていたところ、同年八月一〇日、東京手形交換所の手形不渡処分を受け、これにより、同日本件リース契約は解除された。

4  訴外会社は、前記1(五)の約定に基づき、前記基本額から逓減月額五四万五八七五円の一七か月分を差し引いた三八七五万七一二五円の規定損害金とこれに対する右解除の日の翌日の昭和五三年八月一一日以降約定の年一五パーセントの割合による遅延損害金とを原告に支払うべきこととなった。

5  よって、原告は、被告に対し、連帯保証債務の履行として、右4の金員の支払を求める。

二  被告の答弁

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実は否認する。被告は、昭和五一年一一月初めころ、本件リース契約書(甲第一号証)に記名捺印したことはあるが、これは、訴外会社の求めにより、コンピューターのメーカーに対しコンピューターの設置場所を証明する趣旨で、かつ、その搬入、設置がなされたときから権利義務が発生することを約して、なしたものであり、その後本件物件の搬入、設置はなされていないので、被告について本件保証契約は成立していない。

3  同3及び4の各事実は知らない。

三  被告の抗弁ないし主張

1(一)  本件リース及び保証契約当時、目的物たるコンピューターは存在しなかったかまたは特定されていず、もしくはその引渡がなかったので、訴外会社及び被告の債務は発生していない。本件リース契約が原告主張のようなファイナンス・リース契約であって経済的には金融目的によるものであるとしても、法律上は賃貸借契約であり、具体的契約内容も目的物の引渡があることを前提としていることが明らかであるから、目的物の引渡がなく使用収益の関係が生じないかぎり、その対価たる賃料の支払債務も填補賠償債務も発生するに由ないものである。

(二) 本件保証契約にあたり、原告の代理人としての訴外会社と被告との間で、被告の権利義務は目的物が被告方に搬入設置(引渡)されることを停止条件として生ずる旨の合意がなされたが、右引渡がないので、条件は成就していない。

(三) 本件物件は、既製品として同種のものが何台も製作されているコンピューターのハードウェアであり、需要家(ユーザー)は、これに組み込むソフトウェアにつき各人特有のプログラムを研究確定してから、右ハードウェアを入手するのである。本件リース契約及びこれに伴う原告と訴外会社との間の売買契約は、債権の目的を右のような種類で指示した種類債権を生じさせる契約であるが、目的物を特定するに足りる事実は存しない。仮に原告主張のとおり、契約日に原告社員が訴外会社の社内で機械二台を見せられ、奥の方が契約の対象であるとの指示を受けたとしても、機械番号その他によって確定しないかぎり、移動させればわからなくなるので、特定されたとはいえない。のみならず、本件物件と同種の機械は、訴外会社がメーカーの訴外シャープ株式会社の子会社の販売会社である訴外シャープシステムプロダクト株式会社から十数台買い受けているが、これらは右販売会社から直接ユーザーに搬入されていて、右機械の新品が訴外会社内に存在したことはない。

2(一)  物の賃貸借においては、目的物の引渡があってから賃料等の権利義務が発生すると考えるのが通常であるから、専門リース業者としては、ユーザー保護のため、信義則上、リース契約に際し、目的物が実質的にユーザーの手に引き渡されたことを確認すべき義務を負うものというべきである。しかるに、原告は、本件リース及び保証契約にあたり、本件物件のユーザーが被告であることを知っており、これが被告に引き渡された事実を被告に直接照会することにより容易に確認しえたのにかかわらず、何ら確認の手段をとらなかったもので、右信義則上の義務に違背したものであるから、本件保証契約は無効である。

(二) 原告の主張によれば、原告は、本件リース及び保証契約の一週間前に訴外会社に売買代金の支払をしたのに、その間本件物件の所持者たるべき被告に物件の存否を確認せず、損害を防止する注意を尽くさなかったのであるから、それにもかかわらず、物件不存在による損失を被告に負担させることは、公平の原則、信義則に反する。

3(一)  被告が、本件リース契約書(甲第一号証)に記名捺印した時には、この書面によりメーカーが設置場所を確認するためであり、機械が入らなければ金銭上の問題は生せず、かつ、物件は被告が借りるものであると認識していたものであるから、右記名捺印により訴外会社の債務につき連帯保証をしたことになるとすれば、表示行為自体を誤まる錯誤があって、本件保証契約は無効である。

(二) 被告は、訴外会社担当者の説明に基づき、本件物件が被告方に設置されて初めて契約の効力が生ずるものと認識して、リース契約書に記名捺印したものであり、目的物の使用収益とその対価たる賃料の支払は契約の重大な要素であるから、本件リース及び保証契約が、目的物の引渡がなくても賃料支払等の義務及びこれについての保証債務を生ずるものであるとすれば、被告の本件保証契約の意思表示には重大な錯誤があったものというべきであり、かかる誤認については過失はないので、右契約は無効である。

4(一)  本件リース及び保証契約において、訴外会社が原告に借受証を交付すれば、物件の引渡の有無にかかわらず、リース期間が開始し、リース料の支払債務及び被告の保証債務が発生するものであったとすれば、原告及び訴外会社は、被告に対し、本件物件が被告方に引渡、設置されたのち初めて債務が発生する約定である旨虚偽の事実を述べて被告を欺罔し、その旨誤信させて、本件保証契約を成立させたものであるから、被告は、本訴(昭和五四年九月一〇日付準備書面により同年一〇月三一日第六回口頭弁論期日に陳述)において、被告の右契約の意思表示を取り消す。

(二) 仮に原告が自ら右欺罔行為をしなかったとしても、原告は、訴外会社の右欺罔行為によって被告が錯誤に陥っていることを知りながら、これを奇貨として本件保証契約を締結したもので、これは、原告の不作為による詐欺または民法九六条二項に該当するので、これを理由に本訴(右(一)に同じ)において被告の意思表示を取り消す。

(三) 仮に原告において被告の意思表示が訴外会社の欺罔による錯誤の結果であることを知らなかったとしても、原告は、被告が本件物件のユーザーであり、それが故に保証するものであることを知悉しながら、被告に引渡の有無も確認しなかったもので、欺罔の事実を知らなかったことについて原告に過失があるから、民法九六条二項により取消をすることができる。

5  仮に本件リース及び保証契約が有効であったとすれば、本件物件が原告の訴外会社に対する債権の担保としての作用を有するものであり、原告は、僅かな注意をもって物件の存在を確認していれば、右担保物件を確保しえたものであって、原告がこれを怠ったことは、民法五〇四条所定の担保保存義務を怠ったことにほかならず、その結果、被告は、保証債務を履行した場合における代位による償還の可能性を失ったのであるから、被告は、原告に対する保証の責を免れるものである。

6(一)  原告主張の規定損害金は、実質的に、賃貸借の目的物の保管、返還義務違背による填補賠償であり、目的物の引渡をせず、したがってその使用収益もない場合にもこのような損害賠償をさせる契約は、暴利行為であって、無効である。

(二) 本件リース契約においては、契約解除の場合には、物件の返還とその処分による清算がなされなければならないものであり、物件の引渡がないため、清算をなしえないのに、填補賠償だけを求めうるとすれば、このような契約は暴利行為であって、無効である。

四  被告の抗弁ないし主張に対する原告の反論

1  本件リース契約はいわゆるファイナンス・リース契約で、セール・アンド・リースバック取引の形態すなわち訴外会社が本件物件を原告に売却したうえ同時にこれを原告から賃借するという形態をとったものである。

本件リース契約に先立ち、昭和五一年一一月二五日ころ、訴外会社担当者は、原告に、本件物件はすでに同会社に搬入ずみであり、同月末日までに検収を終えられると述べ、同年一二月一日、本件物件を訴外会社が原告に代金四三六七万円で売り渡す旨の売買契約と、原告を貸主、訴外会社を借主とする本件リース契約とが締結され、同日、訴外会社が本件物件の引渡を受けた旨の借受証を原告に交付した。さらに、右契約日に、原告の担当者は、訴外会社の大野営業部長から訴外会社本社のシステム開発室に案内され、同室に置かれていたHAYAC五〇〇〇システムのコンピューター二台のうち奥の方の物が本件リース契約の対象で、これを二、三日中に被告方に搬入するものである旨の説明を受けた。したがって、本件リース契約当時、本件物件は存在し、かつ、原告から訴外会社へその簡易の引渡がなされたものである。

2  本件リース契約当時、本件物件と同一機種の物が相当数市場に出廻っていたことから、リース契約書の表示のみでは種類債権が成立したと解されるとしても、昭和五一年一一月二五日、原告と訴外会社との話合いの際、取引の対象を訴外会社内に被告向けに確保してあるHAYAC五〇〇〇システムとすることで特定しており、この特定に基づき売買及びリース契約が締結されたものであり、さらに、同年一二月一日、前記のように訴外会社システム開発室内の二台の物件のうちの奥の方を対象物件として指示、確認し、なおその際、原告の担当者は、本件物件が原告の所有であることを示すためにこれに貼付すべきラベルを訴外会社担当者に交付したのであって、これにより目的物は特定されかつその引渡がなされたものとみるべきである。

3  前記セール・アンド・リースバック取引においては、売買契約とリース契約とは、不可分一体の関係にあり、かつ、経済的には借主が融資を受ける目的のもとに取引がなされるのであって、実質上リース料は売買代金相当額の融資に対する利息を付した分割弁済の作用を有する。このような契約の性質に鑑みれば、仮に本件リース契約時に本件物件の引渡がなかったとしても、訴外会社は、リース料支払債務及びその不履行の場合における規定損害金支払債務を免れるものではないと解すべきである。したがって、被告の保証債務も当然存在する。

4  以上に反駁した点以外の被告の主張はすべて争う。

五  原告の再抗弁

1  本件リース契約は、前記のとおり、本件物件を訴外会社が原告に売り渡したうえ、これを借り受けたものであるから、仮に本件物件が存在せずまたは引き渡されていないとすれば、訴外会社が原告に対しいわゆる「から売り」をかけて欺いたことにほかならない。そして、訴外会社は、本件リース契約の締結時に、本件物件の引渡を受けたことを承認し、原告は、昭和五一年一二月七日、売買代金四三六七万円の支払のために訴外会社に宛て手形四通(額面一〇〇〇万円三通、一三六七万円一通、各支払期日昭和五二年二月二八日)を振り出し交付し、右各手形を期日に決済することにより、代金全額の支払を了し、訴外会社は、昭和五一年一二月から同五三年四月まで一七か月分のリース料合計一五八八万八二〇〇円の支払を続けた。この事実によれば、訴外会社は、信義則上、本件物件の引渡を受けていないことを理由に自己の債務の履行を拒むことはできない。

2  被告は、本件リース契約による訴外会社の原告に対する債務について何らの留保を付さないで連帯保証人となり、かつ、訴外会社がセール・アンド・リースバックの取引により本件物件を入手するものであることを知っていたのであるから、原告に対し、訴外会社が信義則上主張しえない抗弁は、被告もこれを主張しえないものと解すべきである。しかして、被告は、訴外会社からソフトウェアの提供を受けて本件物件の再リースを受ける予定であったが、その後、より大型の、より容量の大きいコンピューターに変更することにし、昭和五二年五月三一日、訴外会社と訴外東相総合リース株式会社との間のコンピューターYOMIC―七八一式に関するセール・アンド・リースバック契約につきその連帯保証人となり、その際、本件保証契約による原告の被告に対する請求については訴外会社の責任をもって解決する旨の約束をさせた。すなわち、被告は、いったん導入しようとしたコンピューターを自己の選択で変更し、原告との契約関係を清算しないまま、他のリース業者と新たな契約を結んだのであるから、本件保証契約による義務を免れる理由はない。

六  再抗弁に対する被告の認否及び反論

1  再抗弁1は争う。前記のように、ファイナンス・リースといえども、金融的性格があることから典型的賃貸借と若干の差が認められるのみで、賃貸借の本質には変わりがなく、賃借人への物の引渡がない以上、使用収益の対価たる賃料債務は発生するに由なく、それについての保証債務の発生する余地もない。ところで、訴外会社が、原告に対し、本件物件の借受証を発行したことにより、引渡の有無にかかわらず、リース料の支払を拒絶することができないのは、自己が本件物件の売主であって、すでに売買代金を受領しており、右代金の受領は実質上原告からの融資というべきものであり、したがって、リース料は、使用収益の対価でもあるとともに、他面において実質上融資金の返済の性格を有するものであり、その面において、信義則上、支払義務を負うとされるためである。しかるに、被告は、訴外会社による借受証発行の事実も、訴外会社が原告と売買契約を締結し売買代金を受領している事実も知らなかったのであるから、被告の保証は、もっぱら使用収益の対価たる実質的リース料についてしたものであって、右の信義則上認められる融資金返還債務には及ばないものである。

2  同2のうち、被告が、昭和五二年五月三一日訴外東相総合リース株式会社との間に他のコンピューターに関する契約をしたことは認めるが、その余の主張は争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すれば、被告は、商品管理のためコンピューターの導入を企図し、昭和五一年九月二九日ころ、コンピューター販売業者である訴外会社との間で、コンピューターのいわゆるハードウェアとして本件物件の機種である訴外シャープ株式会社製HAYAC五〇〇〇システムにつき、リース期間五年、リース料月額一六〇万三七〇〇円等の定めをもってリースを受け、かつ、そのソフトウェアをも訴外会社と協議検討のうえ同会社から提供を受ける旨の約定をしたこと、訴外会社は、同年一一月上旬ころ、かねて取引関係のあったリース業者である原告に対し、本件物件を買い取ったうえ、これを訴外会社にリースしてくれるよう交渉し、原告は、訴外会社の信用に不安があったので、本件物件の実際の使用者である被告の連帯保証を得るように求め、被告の信用を調査し、かつ、訴外会社の担当者を介して被告の保証の承諾を得た結果、取引に応ずることとし、あらかじめ、リース契約書(甲第一号証)の連帯保証人欄に被告の記名捺印を得たうえ、同年一二月一日、訴外会社との間に、原告が訴外会社から本件物件を代金四三六七万円で買い受ける旨の契約と、これを原告が訴外会社に請求原因1の(一)ないし(六)の約定により、かつ、本件物件の設置場所を被告方と定めて、貸与する旨の本件リース契約とを締結し、同日、訴外会社から、同会社がリース物件の引渡を受けた旨を記載した借受証の交付を受けたこと、原告は、同年一二月七日、右売買代金支払のため、いずれも支払期日を昭和五二年二月二八日とする額面合計四三六七万円の約束手形四通を訴外会社に対して振り出し交付し、右期日に各手形の支払をして、右代金を完済したこと、他方、訴外会社は、原告に対し、本件リース契約締結後昭和五三年四月分までのリース料の支払をしたが、同年五月ころ、他の機種に切り替えたことを理由に本件リース契約の解約を申し入れ、解約金の一部として金額一八七五万七一二五円の約束手形一通を振り出し交付したものの、その満期の同年八月一〇日に資金不足のためその支払を拒絶し、同日ころ、銀行取引停止処分を受けたこと、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、原告と被告との間に本件保証契約が成立したものと認められるところ、被告は、これに反し、本件リース契約書(甲第一号証)に記名捺印したのは、メーカーに対して機器の設置場所を証明するためであり、機器の搬入、設置がなされたときに初めて保証契約が成立し、保証人の義務が発生するものである旨を主張し、《証拠省略》中には右主張に沿う部分があるが、前掲甲第一号証の記載上そのような趣旨を窺うべき文言は認められないことと、その余の前掲各証拠に対比して、右証言部分は採用しがたく、他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。

二  右認定にかかる訴外会社と原告との間の取引は、訴外会社が原告に本件物件を売り渡したうえでこれを借り受けることとしたいわゆるセール・アンド・リースバックの取引であって、かかる取引は、経済的には、訴外会社がリース業者たる原告から売買代金の支払を受けることによって、物件の調達資金を即時に回収することを目的とするものであり、したがって、売買代金は実質上の融資金であり、リース料はその利息付返済金であるということができる。

ところで、およそ賃貸借は諾成契約であって、物の引渡の有無にかかわらず効力を生じ、ただ、賃貸人が物の引渡をせず使用収益債務の履行をしないときは、賃借人は不履行部分に対応する賃料の支払を拒絶することができるものであるが、本件においては、右のような取引の実質に鑑みれば、訴外会社が原告に支払うべきリース料は、通常の物の使用収益の対価としての賃料とは異なるもので、売買代金相当額の融資に対する返済の実質を有するものであるから、訴外会社は、売買代金の支払を受けた以上、目的物の引渡を受けず、またはその滅失、毀損等により使用収益してないことを理由として、ただちにリース料の支払その他自己のリース契約上の債務の履行を拒むことはできないものと解すべきである。しかも、訴外会社は、売買契約に基づき原告に本件物件を引き渡す義務を負い、その履行がリース契約に基づく原告の引渡義務の履行の前提となる筋合であり、ただ、実際上は、現実の所持の移転をせず、意思表示のみによって二段階の引渡(売買契約に基づく占有改定とリース契約に基づく簡易の引渡)を了したこととすれば足りるのであり、本件において訴外会社が借受書を交付したことにより、このような占有移転の意思表示がなされたものと推認される。そうすると、仮に、このような引渡の意思表示がなされたにかかわらず、訴外会社が目的物を所持していず、またはこれが特定されていないため占有移転の効力を生じなかったとすれば、訴外会社は自己の引渡義務を履行していないのであるから、これを前提とする原告の引渡義務の不履行は訴外会社の責に帰すべき事由によるものであり、しかも、訴外会社は、故意に虚偽の占有移転の意思表示をして、売買代金全額の支払を受け、他方で、ある期間はリース料の支払をも続けていたのであって、もはや信義則上も、目的物の引渡のないことを理由に、本件リース契約上の義務の履行を拒むことは許されないというべきである。

そして、前項の認定事実によれば、訴外会社が昭和五三年八月一〇日ころ手形不渡処分を受けたことにより、請求原因1(四)の特約に基づき本件リース契約は解除され、訴外会社は、原告に対し、請求原因1(五)の約定による規定損害金を支払うべきこととなったもので、その金額は原告主張のとおり三八七五万七一二五円と算定され、被告は、本件リース契約上の訴外会社の全債務につき連帯保証をしたものであるから、右金額の支払義務を負うに至ったものである。

被告は、訴外会社は本件リース契約に基づくリース料のうち融資金に対する返還債務の実質を有する部分についてのみ信義則上支払義務を免れないのであり、被告はリース料のうち使用収益の対価たる実質的賃料についてのみ保証したのであるから、訴外会社の右融資金返還債務の部分には保証は及ばない旨主張するが、リース料が経済的に右の二種の機能を兼ねるとしても、その債務自体を二つの部分に区分できるものではなく、被告の保証は訴外会社の本件リース契約上の債務のすべてに及ぶものと認めるべきであって、右主張は採用することができない。

そのほかに、訴外会社の債務の存在にかかわらず、被告が保証人としての責任を免れうるとする特段の事情の存在を認めることはできない。

三  以上に判示したとおり、本件リース契約当時における本件物件の存在、特定、引渡の有無は、訴外会社の右契約上の義務及び被告の保証債務の存否を左右するものではないと解すべきであるから、右事実の有無を判断するまでもなく、被告の主張は失当であるが、なお被告の抗弁ないし主張について判断を加える。

1  被告の抗弁ないし主張の1は、以上に判示したところにより失当である(なお、本件物件の引渡が被告の債務発生の停止条件とされた事実については、これに沿う《証拠省略》を採用しえないことは前記のとおりであって、これを認めることはできない。)。

2  同2について。本件の取引が前記のようなセール・アンド・リースバック取引の型態のものであり、しかも、訴外会社が原告に借受書を交付して占有移転についての意思表示をした事実によれば原告が本件物件の引渡の有無を確認すべき信義則上の義務を負うものとはとうてい解することができず、右主張は採用することができない。

3  同3について。本件物件の搬入、引渡がなければ本件保証契約は効力を生じない旨の約定があるとするごとき《証拠省略》を採用しえないことは前記のとおりであり、被告主張の点に錯誤があったとの事実を認めるに足る証拠はない。

4  同4について。原告がその作為または不作為により被告を欺罔した事実を認めるべき証拠はない。また、訴外会社において本件物件が訴外会社に引き渡されたときに保証債務が発生するものである旨を述べたとの点についても、前記の採用しえない各証言のほかには、これを認めるに足る証拠はなく、訴外会社の欺罔の事実を認めることはできない。

5  同5について。被告は、原告の担保保存義務違背を主張するところ、原告が本件物件の所有権を有していることが実質的には原告の訴外会社に対する債権の担保たる作用を営むものということができないではないが、法律的には本件物件は賃貸借の目的物であって、原告の債権の担保とはいえず、被告としても保証債務を弁済したからといって、代位により本件物件の所有権を取得するという関係が生ずるとはとうてい解することができない(法定代位の関係は経済的実態のみから定めうるものではないことは明らかである。)。したがって、本件物件が民法五〇四条の担保にあたることを前提とする被告の主張は失当である。

6  同6について。訴外会社が信義則上、物件の引渡のないことを理由に自己の義務の履行を拒みえないことは前記のとおりであり、リース料の支払を怠った場合にこれに代わる約定の損害賠償を支払うことになっても、不当な結果を生ずるとはいえず、解除の場合にも原告が物件の占有を回復しうるわけではないから、右の損害賠償の額から物件の価格を控除しえなくても、原告が不当な利益を得るとはいえない(なお、規定損害金の額は、残存リース期間の金利を考慮しても、未払リース料の額に比して著しく高額であるとは認められない。)。したがって、本件リース契約ないしはそのうちの損害賠償の予定の約定が暴利行為として公序良俗違反により無効であるということはできない。

以上の次第で、被告の主張はすべて採用することができない。

四  よって、原告が被告に対し連帯保証債務の履行として、規定損害金三八七五万七一二五円及びこれに対する契約解除の日の翌日の昭和五三年八月一一日以降約定の年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、理由があるから、これを認容し、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田宏)

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